少女は悪趣味な楽園で踊らされる、永遠に ―青年漫画の少女像―

先日、立ち読みした「週刊文春」にて、こんな記事を発見しました。

 『〈少女〉像の誕生』(渡部周子 新泉社 3500円+税)によると、日本における「少女」は、明治期に学校制度が確立し、就学期間が長くなったことによって、生殖可能な身体を持ちつつも、結婚に至らないという期間が長くなったことよって登場したものであった。
 その時、少女たちは、
 「将来、男性と異性愛関係を築き、妻として献身することが期待されていたのだとしても、結婚までは性的に純潔であらねばならなかった」
 ということで、「身体は純潔、しかし精神は異性愛に応えうる」という矛盾をはらんだ教育が、少女には必要となったのである。

―――『私の読書日記』-受動の愛、美育、少女マンガ- 酒井順子(週刊文春)

なるほど! 初潮年齢(平均12、13歳)と、結婚できる年齢(16歳)のズレが、存在するのに触れられない〈少女像〉を生んでいたのか!
おまけに16歳で結婚できるのに、18歳未満との性的行為は淫行になってしまうというトラップ付き。この矛盾、神秘の溝に、多くの男性はころげ落ちてしまうのですね。恐ろしや恐ろしや。

あまねくすべての男性は、少女が大好きです。
女性も少女が大好きですが、男性のそれは性欲と罪悪と恐れが混ざっていて、とても複雑怪奇。はちきれんばかりの感情で少女を想い続けています。

その混沌とした恋情を、鏡のように映しだしているのが、今の青年漫画ではないでしょうか。象徴的な作品を、いくつかみてみましょう。


●殴りあう少女たち『CYNTHIA THE MISSION』●


15歳のシンシアは、暗殺一族の後継者です。小さな体で殺人を遂行し、何度も瀕死の目に遭います。殴られ、刺され、砕かれ。この作品に出てくるのは、痛めつけられる少女ばかり。

少女といえば、かよわい生き物。守ってあげなければならない花のような存在です。
その少女が殴り殴られ、刺し刺される漫画が『CYNTHIA THE MISSION』。そういうと残酷に聞こますが、物語のノリは至って痛快です。少女たちの無残な姿を、こわいぐらい快感をともなって読むことができます。なぜなら、彼女たちは強いから。

華奢な体に不釣合いな、戦う能力と殺しの術。自ら戦場へ向かう彼女たちだから、その散りゆく姿に見惚れることができる。

この破壊力は、我々が少女に抱く憧憬の反映かもしれません。現実にはかよわい少女でも、人を魅了する精神的破壊力は強大。我々はいつだって、少女の威力に殴られっぱなしですからね。

そこに暴力があればいい。「シンシア ザ ミッション」(たまごまごごはん)


●犯される少女たち『ブラッドハーレーの馬車』●


少女とエッチはできません。
触れてはならぬ禁断の果実だからこそ、ロリコン漫画は増える一方なのですが。

『ブラッドハーレーの馬車』の少女たちは、貧しい孤児院から、資産家ブラッドハーレー家へ向かう馬車に、養女として乗りこみます。ところが、馬車が辿り着くのは屋敷でなく、暗く高い塀の中……。養女というのは真っ赤な嘘。犯罪者たちの性欲・破壊欲のはけ口にされるため、少女は刑務所に連れて行かれるのです。

「少女を犯したい」欲望を、制度の中でコンスタントに満たすとしたら、どんな状況がある? ……そんな妄想を、最も丁寧に残酷に印したのが、この漫画。その惨たらしさ、残虐の極みったら、さすが沙村広明としかいいようがない。

人間の仕業とは思えない? まるで悪魔?
いえいえ、こんな残酷なこと、人間にしかできませんて。悪魔も仏も、人間の想像力に住む生き物ですから。少女を愛してる? おまえがやりたいのはこういうことだろ?

少女たちの夢と希望は丘の向こうに…「ブラッドハーレーの馬車」(たまごまごごはん)


●殺しあう少女たち『GUNSLINGER GIRL』●


『CYNTHIA THE MISSION』と同じ、戦う少女の物語です。拳でなく、銃を手にして。
といっても、痛快なガンアクション漫画でもありません。少女たちの背負う背景はあまりにも重く、暗い。

国中から集められた障害を持つ少女らに、「義体」という強力な機械の体を与え、「条件付け」と呼ばれる洗脳を施し、政府の為の汚れた仕事を請け負わせる。
彼女らは厳しい組織の中で、淡い恋心を糧に戦い続けます。

この悪趣味っぷりは極上です。
『ブラッドハーレー』のような残虐っぷりなら「このド変態!」と罵ればすみますが、こちらの少女は家族を殺され、暴行され、スナッフ・フィルムの餌食にされた上、その記憶を消す代わりに、義体とパートナーと第2の人生を与えられるのです。
洗脳された頭で「しあわせ」を感じながら、担当官のために銃を構えて。頬を染め、笑顔を見せる彼女らに癒される読者。なんと甘美な悪趣味でしょう!
(『最終兵器彼女』あたりの高橋しんっぽい悪趣味具合です)

見事なストーリー展開で、思わず切なくなったり、感動しちゃったするから、よけいタチが悪い。愛しいけれども憎たらしい作品です。

「ガンスリンガーガール」が「ガンスリンガーガイ」だったら僕はどう受け止めたのだろう。(たまごまごごはん)

●あなたを愛する少女たち『愛人 AI-REN』●


「愛人(あいれん)」……終末期の患者の精神的な救済を目的とした、擬似的な配偶者、恋人のような役割をはたす人造遺伝子人間

余命わずかと宣告された主人公のイクルは、激しい孤独と絶望と恐怖に苛まれ、市の福祉課に「愛人」の取得を申請します。そうして、イクルは愛人の「あい」と出会い、ふたりの生活がはじまります。滅亡に向かって進む、セックスすら失らわれた世界で。

絶望の淵にいる男子に、ひとりの人工少女が与えられるという物語は『電影少女』『A・Iが止まらない!』でもありましたね(3作とも「あい」がキーワードですね)。
誰にも愛されない自分を愛してくれる、夢のような少女! この出会いは奇跡? 運命? いえいえ、彼女はあなたを愛するよう作られた、機械ですから。
プログラムされた恋愛の中で、愛することの偉大さ、生きることの喜びを見出すのが『愛人 AI-REN』です。絶望的世界だけに、愛の存在は絶大です。


●「少女はあなたを愛さない」●

――以上、少女をテーマにした4つの青年漫画を見渡すと、ある真実が浮き上がってくるのがわかります。

少女はあなたを愛さない。

少女の儚さ、尊さ、偶像性は、あなたを愛さないことから発生しています。「あなた」とは、我々のこと。少女を描き、少女を読む者を指します。

ひとつめの『CYNTHIA THE MISSION』は、まず恋愛要素がほとんど出てきません
恋愛する暇もなく、重い使命、拳闘の情熱を背負い、少女は生きています。この作品で最も乙女してるのは、高校生ボクサーのカルロスぐらいだしね。

異性に見向きもしてくれないから、我々は殴りあう彼女らを観戦するしかない。抉れる頬を、断たれる腕を、あげる断末魔を、陶然としながら見届けるしかないのです。

ふたつめの『ブラッドハーレーの馬車』は、少女と性交できない現実から生まれた妄想です。
それは法律で禁じられてる上、少女が望んですらいません。あなたとの性交を。

なので見向きもされない我々は、日夜、少女を犯す方法を妄想するのです。ありとあらゆる世界、手段、状況を拵えて。
少女に愛される妄想ならたやすくできますが、そんなものは生ぬるい。ファンタジーも甚だしい。厳密に少女と交わる世界を拵えようとすれば、残酷になるのは必至です。愛されないのだから、憎まれるしかない。しあわせにできないのだから、絶望を与えるしかない。

3つめの『GUNSLINGER GIRL』は、愛されない裏づけが顕著です。少女は余すところなく、「洗脳」されているのですから。

「国中から障害を持つ少女を集め、義体にして殺人をさせる」――フィクションですから、この程度の設定でも描くのに問題はなかったと思います。職務の中で、次第に担当官への恋が芽生える……なぜそうせずに、恋心を「洗脳」に変えたのか。
作者は「少女は簡単に恋が芽生えない」ことを知っていたのでしょう。その真実を避けることができなかった。そして少女は恋もなしに、銃を持たないということも……。

虐待された、かわいそうな少女たち。薬によって植えつけられた、自分への信望。
まっとうな恋愛ができる土壌じゃないこの設定も、読者には逆に甘い蜜となり、適度にハートを刺戟してくれます。まったく、よくできとる!

少女に愛されないことを知った我々は絶望し、また漫画の中の少女へ逃避します。生き生きと躍動する少女を、紙ごしに愛でる。作り物の少女、まるで末期患者に与えられる「愛人」のように……。


少女に好意を持たれることもなく、触れることもできないから、漫画の中の少女は輝きを増し、我々を没頭させるのです。作者も読者も、そのことをよくわかっている。

上記4作は、少女の真理をごまかして描いてないから、名作となっていると、アタシは考えます。
母となる体を持ちながら、純潔を守らされる少女。愛さない少女、愛されないアタシたち。……はぁ、なんという片想いでしょう。

これからも、漫画における少女像は威力を増し、信者を増やし続けることでしょう。
我々は紙ごしに追いかけるしかありませんね。現実で追いかけたら犯罪ですから。

オタク文化に眠る、完璧なる少女偶像にかしずくのだ。(たまごまごごはん)
この手はその少女に触れることが出来ないんだ。〜オタク世界の偶像少女達〜(たまごまごごはん)

……ご覧のとおり、この記事はたまごまごさんの少女論に大きく触発されてます。
ビバ少女崇拝!

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コメント

この記事へのコメント

こんばんは。 ここでは初めまして。

少女崇拝する男にとって、少女っていうのは”可愛い生き物”であり
それ以上でもそれ以下でもないと思いますよ。
犬猫と同じ扱いです。 だから”好き”というより、正確には
”愛玩している”と言うべきかもしれません。

好きでも愛してるでもなく、愛玩!
ああ、なんとサディスティックな響き!!

ガンスリンガーガールの悪趣味さには耐えられませんでした。
創刊号から買っていた電撃大王を、「絵を見るだけで吐き気がする」ので買うのを止めました。

>あまねくすべての男性は、少女が大好きです。

厳密には あまねくすべての男性は「美」少女が大好きです。ではないかと(笑)

男にとって美少女は禁断の甘い果実です。見てる間はずっと幸せでいられます。
でも食べてしまったら・・・食べた後も幸せかどうかは誰にもわからない。
だから食べるのをためらいます。見てる間はずっと幸せでいられるのだから。
でも食べたい!独り占めにして心ゆくまで味わいつくしたい!
でも食べてしまったら(以下、無限ループ)

このジレンマが男の妄想をかきたてていく・・・そんな気がします。

18禁でエロエロですが今一番のおすすめは「キャノン先生トばしすぎ」です。
「エロいパワー全開の少女」です。機会があればぜひご覧ください。

こんなのはどうですか

タイ映画の「Chocolate」はどうでしょうか?
実写ですが、、、
http://jp.youtube.com/watch?v=OGjUyu9c8Ng
「マッハ!!!」「七人のマッハ」とか「トムヤンクン」のブラッチャヤー・ビンゲーオ監督の新作です、4年間アクションのためだけに育てられた「アクション女優」のヤーニン・ウィサミタナン(愛称ジージャー)はなかなかだと思います。

ありがとうございます!女の子は特別教、信者募集中

> モジョ(殉職)さん

〈可愛い〉以上の価値を見つけちゃうのが「崇拝」なんですよね。「にゃんこ崇拝」「わんこ崇拝」の人も、〈可愛い〉以上の何かを動物から受け取ってしまうのですよ、きっと。
なんせ、宗教ですから!

> アノンさん

雑誌購読をやめさせちゃうまでに……。やはり、強烈な悪趣味レベルですね。

ただ、人間には悪趣味なものほどハマっちゃう傾向もあるんですよね。
生まれるのは、憎悪にも近い拒絶か、崇拝に近い好意か。
多くの名作が、その両極端な魅力を持っていると思います。

> ラッキーマン。さん

たしかに、ほとんどの男性は「美」少女好きですよね〜。
まったく、ブスには厳しい世の中で……まぁ、それは男性も同じか(涙目)。

でも「少女崇拝」信者は、「美」に達する前の少女にこそ萌えたりするんですよね。自分がかわいくないことにコンプレックスを持ってたり、ネガティブに走る子とかに。
少女という、儚い時期に生きてるだけで特別になっちゃうんです。……うん、信者というか病気だな。

『キャノン先生トばしすぎ』は買いましたよ!
エロ漫画としてより、ひとりの少女エロ漫画家の物語として、熱く読ませていただきました。名言ばかりでしたね。

> ざんぶろんぞさん

ざんぶろんぞさんのコメントが、たまごまごさんに補足されましたよ!
http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20080224/1203785118

ほんと、素晴らしい情報、予告編をありがとうございます。戦う少女を実写で見れる機会はほとんどないので、眼福でした! こんな女優、日本にはいませんもんね。
タイ、はじまりすぎ。

少女を熱く語るのはいいんですが
男が熱く語ってるならたぶんそいつ童貞なんだな…と
哀れみすら覚えるくらいですよ
単に誰も言葉にしないだけで

> TATAさん

少女語りが熱くなればなるほど、世間の目が冷たくなるのはわかります……。ええ、そですね。危険でしょうね。
「少女好き」→「大人の女性が苦手」→「交際歴なし」という単純論法が出てくるのもわかるんですけど……うーん。だからこそ堂々と少女論を語る男性はすげぇと思います。
こーゆーとき、ほんと女に生まれてよかったなと、卑怯にも安心。公園で幼児を観察しててもあやしまれないし!

そういえば↓行かれましたか?

3月10日(月)〜26日(水)
沙村広明 原画展 「娘達への贖罪」
ヴァニラ画廊
http://www.vanilla-gallery.com/

今日は↓こんなのをやるみたいです
3月22日(土)
薔薇絵ダンスパフォーマンス「水蜘蛛」
19:00〜

> とうりすがりさん

情報ありがとうございます〜。
これ行きたかったんですけど、関西住まい&修羅場で行けないのですよー。画集「人でなしの恋」を眺めて、とりあえず行った気になっときます……。

ダンスパフォーマンスまであるとは、面白いですよね! 是非、地方でもやっていただきたいものです。

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