町田ひらくの少女は叫ばない〜10余年と10年前のインタビュー〜

10年間の単行本未収録作をまとめた『sweet ten diary』が、先月発売されました。

町田ひらく『sweet ten diary』(ヘドバンしながらエロ漫画!)

漫画を読んで思いだしました。「ああ、そういえばアタシが町田ひらくを知ったのも、10年前だな」と。

町田ひらく氏がデビューして、かれこれ13年。発表された単行本は全11冊。アタシがそのハード・ロリータ漫画界の詩人の存在を知ったのは、1998年冬に発売されたサブカル雑誌「Quick Japan 22号」でのことでした。

町田ひらく。ルイス・キャロルの悲しみとゴットフリート・ヘルンバインの加虐性の目をもって少女を弄ぶこの作家の作品は、エロを用いたお安いコントに終始するエロマンガへの苛立ちに対する、ひとつの好ましい回答である。などと適当なことを書くのは簡単だが、そんな言葉に頷いてしまう物分かりのいい奴は嫌だな俺。だからと言って、そうだよな、スカしてみても所詮エロはエロだもんな、とか男らしいんだか分かりやすいんだかわからないエロ乞食は、自分の精液バケツに入れて廊下で勃ってろ。じゃあどすればいいのかといえば「読むな」と言いたい。

―――Quick Japan 22号 「町田ひらく」を「読むな」!

ライター足立守正氏の人を試すような小気味の良い紹介文と、「読むな」という否定命令。6Pに及ぶ町田ひらくのロングインタビューにすっかり惚れ込み、アタシは彼の単行本を買い集めるようになったのでした。前に、はじめて買ったエロ漫画誌は「快楽天」だと書きましたが、それ以前にはじめて買った成年コミックが町田ひらくだったのです。そこからすべてがはじまった。

町田ひらくを愛読する者は、共犯者だ。
罪悪感に打ちのめされるその描写は、他のくぱぁやらめぇなエロ漫画とは一線を画し孤島へ達している。構成力の高さ、叙情と血生臭さの綯い交ぜに読者は絶望と恍惚を得るのだが、決して「抜き」に適した作品ではない。
ロリコンが町田ひらくを読むのは、現実の確認作業でもある。読者に優しいロリエロ漫画が忘れさせてくれるロリコンの真の姿を、町田ひらくではまざまざと原稿に描きつける。欲望のおぞましさ、悲しさ。ここが現実と妄想の折り返し地点。今のLOにおける町田ひらくの立ち位置も、そのようなものではないだろうか。

10年を振り返った単行本も出たことだし、改めて町田ひらくの「姿勢」を再確認したい。古いインタビューからの引用が主ですが、根底は変わってないはずなので。
●エロ漫画の中で、町田ひらく●

町田 デビュー前からずっと思ってたことなんですけど、エロマンガってやたらと最後にオチつけてお笑いで終わるようなところが目立ってたんです。それだけはやるまいと。

――それだけはホントにね。八〇年代に入ってからエロ劇画の新しい流れとして、フルーツや乳製品の名前がつくようなライトなエロマンガ雑誌がたくさん出てきましたけど、その点だけはそれ以前のエロ劇画から引きずってますよね。艶笑小咄みたいな部分を。

町田 風邪ひいた彼氏とやりまくったら風邪がうつっちゃってチャンチャンとかね。

――散々ひどい目にあっときながら「クセになっちゃいそう」とか言ってね。いまだにそんなものにCGで色つけて新味出してるつもりの作家多くて驚くもの。エロをナメてる。

町田 実用的な意味ではそれはそれで完璧なエロマンガなんですけど、ただ俺、やられちゃって最後に「ニャハ♥」とか言って笑ってる女の子にも初めての時があったろうに、それで見ず知らずの奴とやっちゃって「エヘ」とか言ってるこの娘には今までいったい何があったのかを考えちゃいますね。これだけたくさんのエロマンガ家がいるんだから、他の終わらせかたを考えてもいいのになと思ってたんですよ。

―――Quick Japan 22号 「町田ひらく」を「読むな」!

町田 デビュー前にエロマンガを読んでいて、他のマンガに較べてやれることが多いなと、言い換えれば金鉱が隠されてるって感じでした。一般のマンガの中でやったら普通のことでもエロマンガでやったらちょっと面白いものができるかもしれないと思ってたんですよ。ズリネタ描いてるつもりがないですからね。申し訳ないと思うんですけどズリネタになるのは他の人に任せて、自分が見たいエロマンガを描こうと。ズリネタを求める人にはウケないだろうな、でもこういうのを面白がってくれる人が必ずいるって確信はあったんです。喜んでくれる人がいれば嬉しいしそれならまた描こうというお気になります。でもこういうサブカルの本でインタビューを受けるとは想像もつきませんでしたけどね。

――いやあ、サブカルの好きな人もズリネタ求めてますからね。ズリネタ求めてる自分が嫌で、その中から自分なりに見つけだした絶好の言い訳みたいなのを担っている部分はありますよ、町田さんは。こんなの見つけちゃったって、すまし顔でちんちん勃てながら。

―――Quick Japan 22号 「町田ひらく」を「読むな」!

エロは欲しいけど「ニャハ❤ฺ」系は「ぬるい」と断じたい、自称こだわりの漫画読みには、たしかに町田ひらくは打ってつけである。欺瞞だってバレバレなんだけど。
「面白いことができる」金鉱も、今のエロ漫画界はすでに掘り起こされまくった感がありますね。いや、まだまだ面白いものが生まれると思いたい。
しかし、町田ひらく作品に試みた独自性は、あまりにも残酷でした。

●ロリコンの中で、町田ひらく●

――今、町田さんはマンガファンに注目されていますけど、その紹介のされかたの中では、不道徳な部分が無視されていると思うんですよ。エロですよポルノですよというところが、目利きの話題先行ですっとばされてる、それが危険だと思うんです。

町田 それはありますね。こういったことによってロリータのマニアが、ロリコンが、認められることになったらヤバいなと思いますね。ロリコンの人が、少女が天使で神聖なものだと思っているのには虫唾が走るんです。「少女のからだってキレイですよね」とか言い合っているのなんてゾッとします。キレイごとばっかり言いやがって、ヤりてえだけなんだろって思います。

―――Quick Japan 22号 「町田ひらく」を「読むな」!

――(編集部)町田さんの描く女の子って恐いじゃないですか。

町田 こわい?

――(編集部)だってゲショゲショにされても「それでいいんか」って目で見てるじゃないですか。
――そう、少女を攻撃しつつ攻撃されているような描きかたに思えましたが。

町田 それは僕自身がロリコンだから。その俺がガマンして、社会基準に則って常識的な生活してるんだから、他の人もガマンしろよと。後先考えずイタズラなんかしてんじゃねえよ、うらやましいなあと。

――あの女の子のツヨい目でクギさしてんですね。

町田 恐いと思ってもらわないと困ります。女の子と同時に周りからの攻撃も恐いと思ってもらわないと。本人たちは誤魔化してはいないのかもしれないけれど、(ロリコンを)キレイな言葉で正当化した発言もしないで「口は災いのもとだからそのことに関しては何も言葉を発さないで、おとなしくしてろ。ただ想っていればそれだけでいいだろう」と思っているんです。推理小説にしろトリックを使って犯罪を犯すような作品は消えませんよね。なのにロリータものだけ殺人より重いくらいに騒がれることの意味をロリコンの人は考えなきゃいけないんじゃないかと思います。

――そう考えると町田さんの作品は不道徳な道徳マンガなんですね。

町田 それを訴えるわけではないですけど僕個人にはそういう思いがある。道徳云々言えるような人間じゃないので、さりげなく。

―――Quick Japan 22号 「町田ひらく」を「読むな」!

町田ひらく氏のロリコンへの危険意識は、LOの意見広告にも通じるものがありますね。しかし、それをロリータコンプレックスである作者自ら長年訴え続けるのは、精神的負担が大きいわけで。

●欲望と嫌悪と、町田ひらく●

時々新聞で、というか報道で耳にしますね、「〜ちゃん10才が…」
耳をふさぎたい気分です、できれば知らないままでいたい出来事です、僕の想像の中でしか起こってはダメなことです。だって現実に実行してる奴がいるなんて…ロリコンに人達に希望を持たせてしまうじゃありませんか、僕も含めて…。
僕は夢は売るけど希望は絶対に売りたくない。

―――町田ひらく「青空の十三回忌」解説(『greeen-out』収録)

「夢」の中は自由だ。いいように少女を弄ぶことができる。でも、少女は感じない。幸福は訪れない。夢の中で自由になれるのは自分だけで、自分以外の世界は変わらない。独占欲をフィクションからはみ出してはいけないのだ。

少女達の一生が、僕以外の人間の手で汚されるのは、絶対許さない。

―――町田ひらく『卒業式は裸で』study5

呪われろ内藤、そして僕。

―――町田ひらく『卒業式は裸で』あとがき

今度 生まれ変わったらっ またロリコンになりてェ

―――町田ひらく「地上∞階 美少女売場」(『幻覚小節』収録)

過去の作品に共通して言える事ですが、もしかしたら僕は心の奥で、「俺のモノにならないオンナなら何してもいい」と思っているのかもしれない。

―――町田ひらく「空飛ぶ円盤に恋人と乗ったよ」解説(『ANNE FRIENDS』収録)

山上たつひこ先生の「湯の花親子」という四コマに、強姦発生件数日本一の町の町長が描かれていた。
小学生の処女率が世界で最低の町。
ロリコンの僕にとって、こんな町は理想なのか? 否、この町でロリコンは僕ひとりで充分だよ

―――町田ひらく「国立人喰い動物園」解説(『あじあの貢ぎもの』収録)

その理想も、少女に重ねられた絶望の深みに破綻する。自分の欲望を鏡に映しながら書き写すのは、つらすぎる。読者を刺す少女の瞳は、作者をも刺していたのだ。

お話を作る為に、ワザと自分を不幸の袋小路に追い込んでイメージを駆き立てるやり方に無理を感じ、もっと明るい現実を楽しめる仕事に移ろうと、何年か前に漫画家を辞める決心をした。

―――町田ひらく『黄泉のマチ』あとがき

●ゾーニングと、町田ひらく●

――(中略)老婆心ながら、今回の単行本(ゆすら注:『green-out』)、まあいつも買いやすい表紙なんですが、今回とみに買いやすいんで、かえって心配なんですけど。

町田 さすがに多田さん(一水社の編集者、多田在良氏)に、ヤバいよコレって言われましたけど。僕は男の人がレジに持っていっきやすいように、そういう精神的な負担を軽くしてもらおうと。まあ成年マークはいかんともしがたいですが。

――僕としてはエロマンガはもっとヤラシい表紙じゃないとまずいな、その買いにくさのハードルを越えて初めて楽しめるものであってほしいなと思うんで、みんなラクに読めてズルい、おまえら努力してないじゃん、と思うんですが。

町田 その思いは僕もあって、今の子供ってコンビニでヘアヌード見れるでしょ、それがムカついてしょうがない。だから売り場を別にしろとかそういう姿勢には大賛成なんです。

――これはちょっと甘やかしすぎましたよね。でもこれ、町田さんとしても決死のサービスな気がしたんです。これをエロに関わる資格のない人が読んで何か騒ぎ出した時、イチバンひびくのは町田さんですもんね。

―――Quick Japan 22号 「町田ひらく」を「読むな」!

今は、コンビニでヘアヌードを簡単に立ち読みできなくなってるはずですね。
希望と罪悪感、親切心と警告の線引きは難しい。過激な表紙の「買いにくさ」も、今やかなり麻痺してそうですが……。

●町田ひらくの少女●

ところで、町田ひらくの少女は叫ばない。
鬼畜系の漫画は、少女の上げる悲鳴も興奮を呼ぶ要素ですが、町田ひらくの少女はほぼ無言。初期の作品は扇情的に喘ぐことも多かったですけど。
モノローグもほとんど存在しない。少女らが何を考え、どのように絶望に落ちていくのかは、その表情から読み取るしかできません。

ロリコンに言い聞かせる言葉なんざないってこった。
わざわざ背徳感を煽るように泣き叫んでやる理由なんざねぇ。

『sweet ten diary』に、妖精のテーマにした話「deformity」が収録されています。
妖精の声は子供にしか聞こえません。悪趣味な男どもに弄ばれた妖精の悲鳴は、大人の耳には届かず、少女の耳だけを貫く。聞いてはいけない悲鳴を理解してしまった少女は、精神を壊され、髪も白髪に変わってしいます。

子供の絶望を共有できるのは、子供だけだ。
いくらオトナが漫画から罪悪感を読み取ったところで、所詮は娯楽のひとつ……だね。

エロマンガが映す、このどうしようもない世界。町田ひらく「漫画で見る未来の三丁目」(たまごまごごはん)

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コメント

この記事へのコメント

敬愛する町田先生に関する記事、興味深く拝読させて頂きました。
というか、くぱぁもらめぇも大好きニャン♪もヒギィィィも全部等しく大好きな人間のレビューがこの記事の冒頭にあることに非常な居心地の悪さを覚えます。

>いくらオトナが漫画から罪悪感を読み取ったところで、所詮は娯楽のひとつ……だね。

全く同意でして、描かれる少女を踏み台にして罪悪感と向かい合うのも、ハッピーな幻想を謳歌するのも、はたまたエロコメで大笑いするのも、基本的には同質で、性欲も含めてそこで湧く感情に貴賤や優劣はないと僕は信じています。
そういった多様な捉え方を許してくれる懐の深さがエロ漫画の楽しみの一つだと思うのです。
…廊下で勃つ類の人間の詭弁と言われればそれまでなんですが(溜息

> へどばんさん

ありがとうございます!

いやいや、町田氏も「実用的な意味ではそれはそれで完璧なエロマンガ」とおっしゃってますし、アタシもそう思いますし、居心地悪くなど思わないでください。というかすみません;;
アタシも町田ひらく作品は「山ほど語りたいのにレビューしにくい作品」だと思っているので、へどばんさんのレビューはとても助かります。いずれ、きっちりレビューしたいものです。

> 描かれる少女を踏み台にして罪悪感と向かい合うのも、ハッピーな幻想を謳歌するのも、はたまたエロコメで大笑いするのも、基本的には同質で、性欲も含めてそこで湧く感情に貴賤や優劣はない

全くです。鬼畜エロ漫画にもハッピーエロ漫画にも、好みの差は生まれても優劣はないわけで。町田作品はその文学性の高さから、エロ以外の部分でも多く評価されてますが、そんな耳障りがいいだけの評価すら、ご本人から「キレイごとばっかり言いやがって」と切り捨てられそうな予感がします。
アタシもバケツにバルトリン氏腺液を入れて廊下で泣いときます。

前にも書きましたけど、町田先生は共犯というより確信犯だと、僕は思っております。
作者と読者で性癖を共有しあう、フツーのエロ漫画が、共犯として。
「所詮、幼女に劣情を抱くことは社会悪に過ぎない」という、エロ漫画を読んでいる間だけは忘れたい現実を、目をそらさずにつきつけてくる。
(だからって、社会正義に燃えているわけでもないんでしょうけど。んー、だったら愉快犯か?)

僕が初めて町田漫画を買ったときなんですけど、そのときはまだエロ漫画に詳しくなかったんですね。それで、ろくな情報も得ないまま「ロリ」「陵辱」「絶望」というキーワードにイヤッホー!と飛びついてざまぁwwwww 最低のファーストコンタクトでしたとさ。
それでも徐々に惹かれていきまして、罪悪感に目を向けるようになっていったわけですよ。
それより前にキャノン先生的体験をして「僕はロリコンでいていいんだあー!」と突き進んでいった方向から、おもっきし殴られた気分でした。
町田先生の言葉と、すべての心境がシンクロするわけではありません。人間は一枚岩じゃありませんから。でも、間違いなく一面を捉えています。
ありていな言い方をすれば、キャノン先生も町田先生も、両方必要なんだと思います。現実を恥じるばかりでコソコソ援助交際するような大人になってはいけないし、虚構に浸ってるばかりの大人は気持ち悪い。悩み続けて、この厄介な性癖と付き合っていくしかない、と、今のところは思っております。

>わざわざ背徳感を煽るように泣き叫んでやる理由なんざねぇ。
しかし、その刺すような瞳もまた、ロリコンどもの餌になるのであった。合掌。
本来すべきではないのに、したくなっちゃうんですね、たまに。あんなに嫌悪感があったはずなのに、その嫌悪感を楽しみたくなっちゃうとき、町田漫画の男どもと同じくらい気分がグレーになったとき、出来ちゃう。
性癖は常に開拓され、拡張された生存本能を殺すため、新たな言葉が必要となる。僕らはこれからも悩み続けなければならない。生きるために、死ぬために。
さあ、廊下に出ようか。

>子供の絶望を共有できるのは、子供だけだ。
ロリコンの苦悩を共有できるのもロリコンだけ。
ロリコンを生かすのも、ロリコンを殺すのも、ロリコンの仕事。

> zumage1さん

たしかに、町田氏はロリコンの核心を突く確信犯ですね(うまいことゆーたつもり)。

> キャノン先生も町田先生も、両方必要なんだと思います

アタシもキャノン先生の肯定も大好き。両方必要だよね!
光と影というか。ファンタジーで全肯定されながら、現実を知る覚悟も必要。矛盾と生き苦しさを抱えながら楽しむ世界だと思います。

> その刺すような瞳もまた、ロリコンどもの餌になるのであった

まったくww 傷つく少女に眼で攻撃されつつも、それがまた快感だという。町田ひらく作品でゾクゾクさせられる部分て、少女の瞳なんですよね。まったくロリコンにつける薬はないぜ!!

> ロリコンの苦悩を共有できるのもロリコンだけ。

その苦悩はきっと、他人に理解を求めたり、同士でわかちあったり、増長させたりしてはいけないものなのでしょうね。独りで抱え、独りで向き合わなければならないのだろうな……LOに沿えば。

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    ゆすら榛梧(ゆすら しんご)

    Author:ゆすら榛梧(ゆすら しんご)
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