ザンコクでワイセツでユーガイが規制された世界『トラッシュカン』
規制の話題が盛んな時期に読んだので、メチャクチャ考えさせられました。
古張乃莉の短編集『トラッシュカン』に収録されている「Live On Flesh」は、純真な子供の育成のため「残酷、もしくは猥褻な情報」が完全に規制された世界が舞台です。本は次々と発禁。歴史すら書き換えられ、保健や生物の授業も消失。「そういう」人類の真実は、医大などへ進まないと勉強できない仕組みになっています。
子供達は、自分がどうやって生まれてきたのかを知ることもできません。
この短編の初出は2000年1月号「Wings」なので、今渦中にある「エロゲ規制」とは関係ありません。関係ありませんが、エロゲに限らず、あらゆる表現が「規制」と戦ってきた歴史がこの世にはありますね。
表現はツクリモノでありオトギバナシでありフィクションです。
しかし、そこに描かれてる欲望は現実の鏡。それを抹殺して「存在しない」ものとする過剰な規制行為は、歪んだ現実を見せて子供を騙す「Live On Flesh」の世界と地続きではないでしょうか。
〈性〉をこの世から削除した「Live On Flesh」が、次に「ザンコクでワイセツでユーガイ」として抹殺するものは、何でしょう。

子供もステーキも畑で採れるなら、そりゃ「ケンゼンでアンゼン」でしょうなぁ。
といっても、実際セックスしなきゃ子供はできないし、牛を殺さなきゃステーキも食べれませぬ。どれだけ子供にキレイ事を説いたって「ザンコクでワイセツ」とされる行為が、世の中から消えるわけじゃーありません。常に「ザンコクでワイセツ」な欲望を抱えてるのが人間なんだから。
リョーキ的表現をなくすことでリョーキ的事件がなくなるなら、なんて素敵なんでしょう。
しかし、当然ながら現実に犯罪がなくなることはなく、ザンコクでワイセツな衝動が人の心から消えることもないわけで。
●ここからは性と犯罪と物語の話です●
衝動も犯罪も消えないのに、被害者が犯罪を未然に防ぐ完璧な手段なんて存在しません。たとえば性犯罪、「肌を露出しなければいい、護身術を習えばいい」で防げる犯罪ではありませんね。もし、持たなければならないものがあるとすれば、それは性犯罪に対する恐怖心ではないでしょうか。
「この世にはこんな恐ろしい暴力があって、いつ自分が暴力に襲われるかわからない」
なんの盾にもなりませんけど、そういう犯罪が現実にあると知ること、警戒心を持つことは大事だと思います。――アタシが警戒心を知ったのは、漫画でした。
『電影少女』で、もえみが男に襲われるシーンは、子供心にとても恐かったし、『凄ノ王』の輪姦シーンは、外へ出るのがイヤになるほどの絶望を味わいました。普段はそんなこと忘れて生活してるわけですけど。
子供は、自分を取り巻く人々――家族や友達の「人の心」に触れて感情を知るのですが、「物語」が感情を教える場合も多いのではないでしょうか。
冒険する少年のワクワク、恋する少女のドキドキ、事件に遭遇するハラハラ――平凡な生活ではなかなか味わえない、ドラマティック感情。それを教わるのが物語の世界です。胸踊る楽しい物語ばかり……ではなく、恐ろしいリョーキ的物語からも。
暴力を振るう側の高揚感と、暴力に晒される側の恐怖。
バイオレンスな描写は、読者にふたつの感情を体験させます。それは、性暴力も同じ。女子として性暴力にさらされる恐怖に震えながら、同時に異様な興奮も覚えたものですよ……『電影少女』なんかにゃ。
「ザンコクでワイセツ」な表現を完全に規制すれば、「ザンコクでワイセツ」な現実を知る機会がなくなります。淡々としたTVの報道だけで、悲惨な実情を想像することができるでしょうか。犯罪を恐れる気持ちが芽生えるんでしょうか。
……「ザンコクでワイセツ」な表現を一切排除した世界は、「ザンコクでワイセツ」な現実に子供達を無防備に晒すことを意味するのではないでしょうか?
ま、エロゲの場合はゾーニング対象商品なので、上の話とは問題がぜんぜん変わってくるわけですが! それでも、根っこは同じだと思うのです。
『肉』の正体すら規制する「Live On Flesh」は、現実離れした特異な世界観かもしれません。けど、リアルの世界でも規制がエスカレートし続けたら……?
●それはともかく、『トラッシュカン』には極上の〈痛み〉が詰まってます●
古張乃莉の『トラッシュカン』が発売したのは昨年末。たまたま本屋で見てジャケ買いしたのですが、大・正・解!でした。古張乃莉は昔、藍川さとるという名で『飛行×少年』を描いてた漫画家さんです。といえば「懐かしい!」という女の子も多いかも。
他の作品も、心の〈痛み〉を丁寧に描いた良作ばかり。ものすごく「Wings」らしい単行本だと思いました。「Wings」って、「りぼん」や「なかよし」や「花ゆめ」に比べて、昔から〈痛み〉に特化した雑誌じゃありませんでした?
痛みや恐怖なんて、体験しないなら体験しない方がいいに決まってる。決まってるけど、痛みを感じること、痛みの存在を知ることは、きっと生きていく上ですごく大事。
「で その理屈でいくと
親がセックスして子供ができるなんて話は
子供にとってザンコクでワイセツでユーガイなんだってさ」
―――『トラッシュカン』収録「Live On Flesh」
古張乃莉の短編集『トラッシュカン』に収録されている「Live On Flesh」は、純真な子供の育成のため「残酷、もしくは猥褻な情報」が完全に規制された世界が舞台です。本は次々と発禁。歴史すら書き換えられ、保健や生物の授業も消失。「そういう」人類の真実は、医大などへ進まないと勉強できない仕組みになっています。
子供達は、自分がどうやって生まれてきたのかを知ることもできません。
「ボクはアキの子供じゃなかったの!?
本当はキャベツの子供だったの!?」
―――『トラッシュカン』収録「Live On Flesh」
この短編の初出は2000年1月号「Wings」なので、今渦中にある「エロゲ規制」とは関係ありません。関係ありませんが、エロゲに限らず、あらゆる表現が「規制」と戦ってきた歴史がこの世にはありますね。
表現はツクリモノでありオトギバナシでありフィクションです。
しかし、そこに描かれてる欲望は現実の鏡。それを抹殺して「存在しない」ものとする過剰な規制行為は、歪んだ現実を見せて子供を騙す「Live On Flesh」の世界と地続きではないでしょうか。
〈性〉をこの世から削除した「Live On Flesh」が、次に「ザンコクでワイセツでユーガイ」として抹殺するものは、何でしょう。

「でも一番おかしーのがさ
『肉』の正体を教えちゃいけねんだって」
「――何だ? それ」
「だからさーたとえば
ステーキは牛を殺して焼いて食うんだとか言うと
純真なお子さんはザイアクカンにさいなまれて
気持ち悪いとかもう食べないとか思うんだってさ」
「……だから?」
「だからさ
そんな罪はなかった事にしてあげるのさ
『肉』は生き物じゃない
畑で取れたとでも言うんじゃねーの」
―――『トラッシュカン』収録「Live On Flesh」
子供もステーキも畑で採れるなら、そりゃ「ケンゼンでアンゼン」でしょうなぁ。
といっても、実際セックスしなきゃ子供はできないし、牛を殺さなきゃステーキも食べれませぬ。どれだけ子供にキレイ事を説いたって「ザンコクでワイセツ」とされる行為が、世の中から消えるわけじゃーありません。常に「ザンコクでワイセツ」な欲望を抱えてるのが人間なんだから。
リョーキ的表現をなくすことでリョーキ的事件がなくなるなら、なんて素敵なんでしょう。
しかし、当然ながら現実に犯罪がなくなることはなく、ザンコクでワイセツな衝動が人の心から消えることもないわけで。
衝動も犯罪も消えないのに、被害者が犯罪を未然に防ぐ完璧な手段なんて存在しません。たとえば性犯罪、「肌を露出しなければいい、護身術を習えばいい」で防げる犯罪ではありませんね。もし、持たなければならないものがあるとすれば、それは性犯罪に対する恐怖心ではないでしょうか。
「この世にはこんな恐ろしい暴力があって、いつ自分が暴力に襲われるかわからない」
なんの盾にもなりませんけど、そういう犯罪が現実にあると知ること、警戒心を持つことは大事だと思います。――アタシが警戒心を知ったのは、漫画でした。
『電影少女』で、もえみが男に襲われるシーンは、子供心にとても恐かったし、『凄ノ王』の輪姦シーンは、外へ出るのがイヤになるほどの絶望を味わいました。普段はそんなこと忘れて生活してるわけですけど。
子供は、自分を取り巻く人々――家族や友達の「人の心」に触れて感情を知るのですが、「物語」が感情を教える場合も多いのではないでしょうか。
冒険する少年のワクワク、恋する少女のドキドキ、事件に遭遇するハラハラ――平凡な生活ではなかなか味わえない、ドラマティック感情。それを教わるのが物語の世界です。胸踊る楽しい物語ばかり……ではなく、恐ろしいリョーキ的物語からも。
暴力を振るう側の高揚感と、暴力に晒される側の恐怖。
バイオレンスな描写は、読者にふたつの感情を体験させます。それは、性暴力も同じ。女子として性暴力にさらされる恐怖に震えながら、同時に異様な興奮も覚えたものですよ……『電影少女』なんかにゃ。
「ザンコクでワイセツ」な表現を完全に規制すれば、「ザンコクでワイセツ」な現実を知る機会がなくなります。淡々としたTVの報道だけで、悲惨な実情を想像することができるでしょうか。犯罪を恐れる気持ちが芽生えるんでしょうか。
……「ザンコクでワイセツ」な表現を一切排除した世界は、「ザンコクでワイセツ」な現実に子供達を無防備に晒すことを意味するのではないでしょうか?
僕らは 罪を消すために 血を洗い肉を焼いた。
罪を知らない 僕らの子供達には
もうすでに 首がないのかもしれない。
「これは、いけないこと?」
―――『トラッシュカン』収録「Live On Flesh」
ま、エロゲの場合はゾーニング対象商品なので、上の話とは問題がぜんぜん変わってくるわけですが! それでも、根っこは同じだと思うのです。
『肉』の正体すら規制する「Live On Flesh」は、現実離れした特異な世界観かもしれません。けど、リアルの世界でも規制がエスカレートし続けたら……?
古張乃莉の『トラッシュカン』が発売したのは昨年末。たまたま本屋で見てジャケ買いしたのですが、大・正・解!でした。古張乃莉は昔、藍川さとるという名で『飛行×少年』を描いてた漫画家さんです。といえば「懐かしい!」という女の子も多いかも。
他の作品も、心の〈痛み〉を丁寧に描いた良作ばかり。ものすごく「Wings」らしい単行本だと思いました。「Wings」って、「りぼん」や「なかよし」や「花ゆめ」に比べて、昔から〈痛み〉に特化した雑誌じゃありませんでした?
「ヨシユキなら 何も感じないと思ったんだ
思ったんだけど ……泣いてるね 痛い?
痛い?」
「痛いよ」
「そっか ごめんね」
「ううん いいのよ
私も ミヤギ君は痛くないんだと思ってた
ごめんね ごめんね」
―――『トラッシュカン』収録「告白ごっこ。」
「穴が開いているのよ」
―――どこに?
空に 記憶に 世界に
いいえ ―――私に
―――『トラッシュカン』収録「痛みのない日」
あの子のように もう一度
恋で 泣きたいと思った
―――『トラッシュカン』収録「それだけ」
「ずっと前からここにね
傷があって痛みもあって
でも誰に見せても そんな傷どこにもないっていうの
お医者さんもお父さんもお母さんもお姉ちゃんも
――彼も
でも コースケには見えてたんだね
だったら もうそれでいいや」
―――『トラッシュカン』収録「ふれるはずの未来」
痛みや恐怖なんて、体験しないなら体験しない方がいいに決まってる。決まってるけど、痛みを感じること、痛みの存在を知ることは、きっと生きていく上ですごく大事。
コメント
この記事へのコメント
人一人が一回の人生で体験できることなんて、現実にはたかが知れています。
創作物に触れることによって、自分の人生とは縁の薄い出来事すら追体験し、怒りや悲しみ、喜びや痛みを知ることができる、想像できるようになるのは素晴らしいことだと思うんですよね。
そうやって育まれていくものは確かにあるはず。
もし徹底的に表現を規制すれば、どれほど薄っぺらい人間が増えることか。
こういう作品は読んでおきたいですね――って、藍川さとるですとーーーーっ!?
うわあ読んでた読んでた! そのPNの頃に読んでた!
やばい、要チェックじゃないですか。
コメントの最後に、好きなラノベから名言をひとつ。
「下品なことをして子供ができるわけがないだろう。つまり子作りは上品だ」
エロを卑下せぬ男の言葉(笑)
創作物に触れることによって、自分の人生とは縁の薄い出来事すら追体験し、怒りや悲しみ、喜びや痛みを知ることができる、想像できるようになるのは素晴らしいことだと思うんですよね。
そうやって育まれていくものは確かにあるはず。
もし徹底的に表現を規制すれば、どれほど薄っぺらい人間が増えることか。
こういう作品は読んでおきたいですね――って、藍川さとるですとーーーーっ!?
うわあ読んでた読んでた! そのPNの頃に読んでた!
やばい、要チェックじゃないですか。
コメントの最後に、好きなラノベから名言をひとつ。
「下品なことをして子供ができるわけがないだろう。つまり子作りは上品だ」
エロを卑下せぬ男の言葉(笑)
愛なんて粘膜の作り出す幻想だ
とか
痛みを感じる方向に出口がある
とかいうフレーズを思い出しました。
とか
痛みを感じる方向に出口がある
とかいうフレーズを思い出しました。
日本のエロは鎖国すべし!
一部エロゲメーカーのサイトが海外からの接続をシャットアウトしてるようです。
その措置に海外オタクが激怒!ってw
日本の二次元エロを完全に鎖国状態にする良い手段。
そんなにエロゲやりたいなら自分らで作ればいいのに。
日本政府は外圧に弱いから海外のエロゲ愛好家が
規制強化反対の声あげて頑張ってくれれば事態は好転するかも?
そんなことよりエヴァ破がスゴ過ぎてスゴ過ぎて!
一度別れた恋人に惚れなおすってこんな感覚なん?
もいっかいみてこよ。
その措置に海外オタクが激怒!ってw
日本の二次元エロを完全に鎖国状態にする良い手段。
そんなにエロゲやりたいなら自分らで作ればいいのに。
日本政府は外圧に弱いから海外のエロゲ愛好家が
規制強化反対の声あげて頑張ってくれれば事態は好転するかも?
そんなことよりエヴァ破がスゴ過ぎてスゴ過ぎて!
一度別れた恋人に惚れなおすってこんな感覚なん?
もいっかいみてこよ。
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ありがとうございます!規制はどこまでエスカレートする?
超亀レスですみません……。
> akiyamaさん
子供に痛みを教えることも大事ですよね。もちろん体罰とか虐待とかじゃなくて。何の痛みも感じない保育器だけで育った人は、自分の言葉や腕力が他人を傷つけることもある――ということにすら気付けない。
傷ついて学ぶことも、世の中にはありますよね。
> nekomeさん
物語から得るものは大きいですよねぇ!
だから、子供から漫画やゲームを取り上げるのはイカンッ。没頭しすぎるのもアレですけどね。
nekomeさんが藍川さとる読者だったとは。抑えドコロがナイスすぎます。
> 痛みを感じる方向に出口がある
イサコー!ヤサコー!
> てつさん
エロゲサイトの海外シャットアウトには賛成の気持ちと反対の気持ちがあるのですが、こういう情勢ではしかたない選択かもしれませんね。
『ヱヴァ破』はすごかった! 4回目も観たい!
> お体大丈夫ですか
ほんとーーーに無駄に心配おかけしてすみませんっ!! なんというか、本格的に落ち着くのに、もう少し時間がかかりそうです。たいした多忙・病でもないのに情けないです。
> akiyamaさん
子供に痛みを教えることも大事ですよね。もちろん体罰とか虐待とかじゃなくて。何の痛みも感じない保育器だけで育った人は、自分の言葉や腕力が他人を傷つけることもある――ということにすら気付けない。
傷ついて学ぶことも、世の中にはありますよね。
> nekomeさん
物語から得るものは大きいですよねぇ!
だから、子供から漫画やゲームを取り上げるのはイカンッ。没頭しすぎるのもアレですけどね。
nekomeさんが藍川さとる読者だったとは。抑えドコロがナイスすぎます。
> 痛みを感じる方向に出口がある
イサコー!ヤサコー!
> てつさん
エロゲサイトの海外シャットアウトには賛成の気持ちと反対の気持ちがあるのですが、こういう情勢ではしかたない選択かもしれませんね。
『ヱヴァ破』はすごかった! 4回目も観たい!
> お体大丈夫ですか
ほんとーーーに無駄に心配おかけしてすみませんっ!! なんというか、本格的に落ち着くのに、もう少し時間がかかりそうです。たいした多忙・病でもないのに情けないです。
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痛みや恐怖を体験しないと攻撃的な人間になってしまう気がします。
自分が小学生のとき普段おとなしいガリ勉タイプの子ほどキレると暴力的でこわかったことを覚えてます(あくまで自分の周りにいた子は、です)。そのタイプの子は痛みを知る機会がなくてどこまでやっていいか判らなかったんじゃないかと今思います。ここまではやっても大丈夫という線引きは自分自身が痛みを知ってないとわからないと。
いや、もちろん暴力はいけないんですが、出来れば痛みや恐怖は子供のときに知っといたほうがいいと思ったので。身体的も精神的にも転び方も覚えられるし。立ち直り方も。
そもそも大人が見るものを規制してどうするんだろう?エロゲに影響を受けて犯罪を起こす輩がいるから?そんなに感受性の強い大人がいるでしょうか。そういう輩がいるとしたらどういう子供時代を過ごしていたのだろうか。
自分にはよくわかんないです