第18回 テレクラ発・生まれたての27歳『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』です。現在もスピリッツで絶賛連載中。多くのファンが、主人公・田西の行く末に刮目してますね。
作者にとってほんのプロローグのつもりだった「社会人編」が、予定を大幅にこえ49話で完結。50話からは、本編であるらしい「ボクシング編」がスタートしました。
そのイントロにすぎなかった「社会人編」が、神。美味しすぎる構成と演出。生々しすぎるキャラクター。現実と漫画力の拮抗が、わずか5巻の中にギッシリ。ひとつの大作映画ができあがってます。未読の方も、とにかく5巻まではセットで買って読むべし。
今回は、そんな『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の5巻までを振り返っちゃおうと思います。個人的嗜好メインで、キャラクター達を。
この作品は、物語よりキャラクターを語った方が手っ取り早く、楽しい。訴えたい言葉はすべて人物に込められています。

青山貴博(あおやま たかひろ)
しょっぱなからコイツですまん。ヤな男参上!
いや、正直、好きなんですよ。カッコイイじゃないですか、悪いところも含めて。
ここまで本性さらけだしてるのに、みっともないトコロがない。常に余裕。そりゃ、悪男でもモテるって。
さりげなく自己主張してるモミアゲもイイしね。色気ある! 絶妙の存在感ですよ。
物語の前半では、紳士でした。
ライバルですらない弱小企業の田西にも気さくに接し、女の子の口説き方をアドバイスしちゃう男前さ。女からも男からも人望の厚いタイプですね。
物語が進むにつれ、その皮がじょじょにはがれていくんですが、本性を表われても清々しい。さわやか。堂に入ってる。
「カッコイイやつは 自然と図々しいことが できていいよな。 歯に青ノリがついても カッコイイぜ。」ってコメントがピッタリ。
その「青ノリ」の出てくる田西とのヤキソバの場面ですが、構成うますぎるっっ!! これは誰もがうなった部分だと思うので、改めておさらいしてみましょう。
田西の恋を助太刀するため、ビアガーデンのWデートに付き合ってくれた青山。
後日、営業の合間に公園でヤキソバを食べる田西に会い、「ひと口ください。」と、食べかけのヤキソバをすすります。
これはその後、田西の想い人であるちはるを横取りすることの予言。ズバリ、宣告だったわけですねぇ。
しかし、このときの田西にそんな真意などわかろうはずもなく、ちはるとのメールに夢中で、食べかけのヤキソバもおにぎりも青山に渡して去ってしまいます。
これも、その後の青山の鬼畜っぷりをほのめかすセリフ。
そして田西よ、おまえは己のヤキソバとおにぎりを青山に渡した時点で、すでにちはるを失っていたのだ……。振り返って後悔する、些細なつまづき。人間ドラマが、こんなさり気ないところに凝縮されています。
しかも、この布石には第2段があり、それがまた素晴らしい対になっているというかオチになっているから、たまらりません。
田西がちはるに玉砕し、しばらく経ったある日。外回りでの食事中に、再び青山が現れます。
「あ、食べる? 口つけて ない方。」「いや、前に 人の食いもんが うまそうに見える って言ってたから。」
食べかけのホットドッグを差し出す田西に対し、青山は
と、あっさり。
……ええ、このときの青山はすでにちはるを食い尽くし、とっくに飽きていた頃なんですね。
「前に付き合った女の話」として、歯を矯正する女を笑い、田西に聞かせる彼。すべてはちはるのことだという、隠された裏。なんという残忍さでしょう。聞かされてる田西は真相がわからないから、よけーに愉快。あはは。そりゃ、たまらんよなぁ。
すべてが完璧すぎます。そりゃ、挫折なんて味わったことないでしょう。
この男を転がすのは相当大変だと思いますよ。田西的にも、物語的にもね。

植村ちはる(うえむら ちはる)
田西の想い人。
かわいく、純粋な、心優しき処女。なのに、どんどん転落していく聖女性……。
終盤ではビッチの名をほしいままにしていたわけですが、うん、アタシは大好きさ。ちはる、かわいいよ、ちはる。
作者の花沢健吾がすでに「憎しみを込めて描いている」と明言してるわけですが、ちはるの嫌われっぷりは『NANA』のハチと似ています。
恋愛盲目者。さみしがり屋で、恋に落ちると周りが見えず、傷つきやすいから男の失敗が許せない。
ハチやちはるを叩いてる人って、そんなに真っ当な恋愛をしてるのかよ?
誰に見られても恥ずかしくない、正々堂々とした恋愛なんてあるのか。好きになるのってみっともなくて、いくらでもズルくなれちゃうもんなんじゃない?
これは、ちはるの初恋話。はじめての失恋がきっかけで、地元を離れ東京で働くことになったのですが、結局はまったく同じことを青山と繰り返すわけでして。
こういう子は何度も同じタイプの男にだまされちゃうんだよ。悩んで苦しんで、友人に相談して的確なアドバイスをもらっても、結局は男の言葉を信じちゃって。
青山と付き合ってるときは田西をストーカー呼ばわりし、捨てられるとしつこく泣いて、つきまとう。ストーカー行為に陥り、ストーカー扱いしていた田西にまた頼る。相談相手だった青山の部下と寝てしまう。
……うん、ヒドイ。ヒドイけど、恋愛って、人間ってそんなもんだ。矛盾してても、瞬間瞬間の彼女の気持ちは嘘じゃない。常に正直でまっすぐなんだ。
その正直さに、最後の最後で田西は許せなくなってしまったわけで……。
いたい。ほんとーにいたすぎる、別れ。
これだけリアルに憎しみを込めて描いてるのに、仕草も表情も100%かわいいままなんて、作者はスゲーですよ。なんつー、プロ根性と嗜虐趣味。
そのせめぎ合いが、ちはるを魅力的にしていると思うんですね。でも、ちはるがかわいく見えるのはオバサンの証拠かなー。

田西敏行(たにし としゆき)
ここに来て、主人公。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のトラビス。
ご存知のように、この作品は9割9分、田西の視点によって描かれています。田西以外のモノローグが流れることはありません。読者が田西とシンクロしやすいよう、たっぷりLCLが注入されているわけです。
(なので、5巻39話で、名もなきオタクの回想シーンが挿入されたのには、唐突感と違和感を覚えました。前作の『ルサンチマン』に引き続き、作者はこの種のキャラを描きたくてしょうがないのかもしれませんね)
自らそう言うように、27年間、何の行動も起こさなかった主人公。
これだけ田西に焦点をあてているのに、田西の過去がまったく見えてこないのは、本当に何もないからなんでしょうか。過去の失恋なんぞ回想で出てきてもよさそうなものなのに、一度も描かれたことがない。
はじめは、『ひぐらしのなく頃に』の圭一ばりに、重いトラウマを抱えながら見せてないだけなんじゃーとか、のちに田西の過去を知る重要な人物が登場するのかなーとか想像してたんですが、なんだか本気で何もなさそう。ここまでゼロな主人公もめずらしいです。
ゼロからの出発。
27歳のバースデーが、人生のスタート地点。子宮のテレクラを抜け出し、走って走って走り続ける。
回を重ねるごとに積まれていくページ数が、田西の人生の厚みなんですね。「うすっぺらなんだよ」と言われた人間が、どれだけ厚く成長できるか。その記録が、この『ボーイズ・オン・ザ・ラン』。
今のところ挫折ばかりが刻まれているようですが、勝利の喜びに至るまでには何ページ費やされるんでしょう。作者のシビアな視点を見てると、まだまだ遠い道のりのようですね。

ハナ
そして、ボクシング編のヒロイン。
1話で主要人物のように登場してきたのに、結局チラ見せで謎だらけの存在だった少女。
54話にして、やっと主人公とからみだした! と喜んでたら、とんでもない設定が明かされたり。
そ、そうくるかぁ〜。本当に容赦ねぇな、作者。ぜんっぜん、気づかんかったわぁ。
田西がどこまで彼女に近づけるか。ちはるのときのように逃げださず、ちゃんと向き合えるのかが見ものですね。
――以上が、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』5巻までの主要人物。
とにかく、見せ方がうまい。構成力がすごい。読者は田西とともに驚き、突き落とされ、走ってきました。
正直、社会人編が見事すぎるので、ボクシング編はそこまでクオリティが保たれるかどうか心配なんですが、聞いたところによると、とんでもない状態で青山が再登場してるみたいなので、これからも目が離せませんわ。
また斎田産業の人達も出てほしいなぁ。いい味の濃いキャラばっかだったし。
さて、今月中に6巻が出るようなので、そちらも要チェック。
まだ読んでない人は、今のうちに田西に乗っかときましょう。みんなで、オン・ザ・ラン。
……と。最後に、このキャラだけは語らせてくれ。今作をレビューする上で避けて通れないキャラ。

まゆみ
テレクラで知り合い、田西とホテルに行くが、その容姿のせいで事に至らなかった1話の女。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のすべては、このキャラに詰まっていると言っても過言ではありません。
電話で「山田花子似の ぽっちゃりだけど それでもいい?」と訊ねる、遠慮深さ。
待合せ場所に現れた田西の失望っぷりにショックを受けながら、「あたしで、 いいですか?」と訊ねる、謙虚さ。
豚丼をおごってもらったあとの、「ごちそーさま! ペコリ。」と言う、礼儀正しさ。
安い簡易ホテルを教え、「あたしとじゃ、 お金、もったい ないでしょ。」と言う、控えめさ。
滅茶かわいい! この小デブを、こんなにかわいく描写できる手腕! 1巻27ページまでは、確実に彼女がこの作品のヒロインでした。
なのに。ああ、なのに……。
田西が勃たないと知ってからの彼女の豹変っぷりといったら、なんという夜叉。
セックスへかける女の執念がリアルすぎます。女の闇に積ったルサンチマンがよく見える。
この本性のあらわしっぷりは、青山やちはると、同じじゃないですか。
はじめの社交的な対応にだまされ、結果ボコボコになっちゃう展開も同じ。つまり、このジャージデブは、青山やちはるのプロトタイプ。この1話に、社会人編のすべてが示唆されていたということです。
相手の本性が見抜けず、何度も翻弄される田西。
ボクシングを通じ、果たしてその運命をくつがえせるのか。
この作品のラスボスはジャージデブまゆみだと、勝手に思っていながら読んでます。
痛みを知る、すべての男たちへ。
あるいは、すべての痛い男たちへ。
三十路目前、そろそろ選択しようじゃないか、我が人生!
超等身大ダメ男・田西敏行の遅咲き青春ブルース!!
作者にとってほんのプロローグのつもりだった「社会人編」が、予定を大幅にこえ49話で完結。50話からは、本編であるらしい「ボクシング編」がスタートしました。
そのイントロにすぎなかった「社会人編」が、神。美味しすぎる構成と演出。生々しすぎるキャラクター。現実と漫画力の拮抗が、わずか5巻の中にギッシリ。ひとつの大作映画ができあがってます。未読の方も、とにかく5巻まではセットで買って読むべし。
今回は、そんな『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の5巻までを振り返っちゃおうと思います。個人的嗜好メインで、キャラクター達を。
この作品は、物語よりキャラクターを語った方が手っ取り早く、楽しい。訴えたい言葉はすべて人物に込められています。

青山貴博(あおやま たかひろ)
しょっぱなからコイツですまん。ヤな男参上!
いや、正直、好きなんですよ。カッコイイじゃないですか、悪いところも含めて。
ここまで本性さらけだしてるのに、みっともないトコロがない。常に余裕。そりゃ、悪男でもモテるって。
さりげなく自己主張してるモミアゲもイイしね。色気ある! 絶妙の存在感ですよ。
物語の前半では、紳士でした。
ライバルですらない弱小企業の田西にも気さくに接し、女の子の口説き方をアドバイスしちゃう男前さ。女からも男からも人望の厚いタイプですね。
物語が進むにつれ、その皮がじょじょにはがれていくんですが、本性を表われても清々しい。さわやか。堂に入ってる。
「カッコイイやつは 自然と図々しいことが できていいよな。 歯に青ノリがついても カッコイイぜ。」ってコメントがピッタリ。
その「青ノリ」の出てくる田西とのヤキソバの場面ですが、構成うますぎるっっ!! これは誰もがうなった部分だと思うので、改めておさらいしてみましょう。
田西の恋を助太刀するため、ビアガーデンのWデートに付き合ってくれた青山。
後日、営業の合間に公園でヤキソバを食べる田西に会い、「ひと口ください。」と、食べかけのヤキソバをすすります。
「なんか人の食いもんて やけにうまそうに 見えるんですよね。」
「時々、 隣の芝が すっげえ青く 見えるんですよね。」
(2巻95・96頁)
これはその後、田西の想い人であるちはるを横取りすることの予言。ズバリ、宣告だったわけですねぇ。
しかし、このときの田西にそんな真意などわかろうはずもなく、ちはるとのメールに夢中で、食べかけのヤキソバもおにぎりも青山に渡して去ってしまいます。
「まいったな〜〜 ひと口だから うまいのに…」
(2巻97頁)
これも、その後の青山の鬼畜っぷりをほのめかすセリフ。
そして田西よ、おまえは己のヤキソバとおにぎりを青山に渡した時点で、すでにちはるを失っていたのだ……。振り返って後悔する、些細なつまづき。人間ドラマが、こんなさり気ないところに凝縮されています。
しかも、この布石には第2段があり、それがまた素晴らしい対になっているというかオチになっているから、たまらりません。
田西がちはるに玉砕し、しばらく経ったある日。外回りでの食事中に、再び青山が現れます。
「あ、食べる? 口つけて ない方。」「いや、前に 人の食いもんが うまそうに見える って言ってたから。」
食べかけのホットドッグを差し出す田西に対し、青山は
「いえ、いま俺 腹いっぱい なんで」
(2巻203頁)
と、あっさり。
……ええ、このときの青山はすでにちはるを食い尽くし、とっくに飽きていた頃なんですね。
「前に付き合った女の話」として、歯を矯正する女を笑い、田西に聞かせる彼。すべてはちはるのことだという、隠された裏。なんという残忍さでしょう。聞かされてる田西は真相がわからないから、よけーに愉快。あはは。そりゃ、たまらんよなぁ。
すべてが完璧すぎます。そりゃ、挫折なんて味わったことないでしょう。
この男を転がすのは相当大変だと思いますよ。田西的にも、物語的にもね。

植村ちはる(うえむら ちはる)
田西の想い人。
かわいく、純粋な、心優しき処女。なのに、どんどん転落していく聖女性……。
終盤ではビッチの名をほしいままにしていたわけですが、うん、アタシは大好きさ。ちはる、かわいいよ、ちはる。
作者の花沢健吾がすでに「憎しみを込めて描いている」と明言してるわけですが、ちはるの嫌われっぷりは『NANA』のハチと似ています。
恋愛盲目者。さみしがり屋で、恋に落ちると周りが見えず、傷つきやすいから男の失敗が許せない。
ハチやちはるを叩いてる人って、そんなに真っ当な恋愛をしてるのかよ?
誰に見られても恥ずかしくない、正々堂々とした恋愛なんてあるのか。好きになるのってみっともなくて、いくらでもズルくなれちゃうもんなんじゃない?
「その人は 会社の先輩で、 女性社員と ほとんど しちゃってるような 人だったんですが、 私、さっぱり 気づかなくて…」
「好きになったら 周りが見えなく なっちゃうんですね。 逆にショックも 大きくて、 まあ、結局それで 会社やめちゃい ました。」
(1巻201頁)
これは、ちはるの初恋話。はじめての失恋がきっかけで、地元を離れ東京で働くことになったのですが、結局はまったく同じことを青山と繰り返すわけでして。
「私、 学習能力 ないみたい。」
(3巻93頁)
こういう子は何度も同じタイプの男にだまされちゃうんだよ。悩んで苦しんで、友人に相談して的確なアドバイスをもらっても、結局は男の言葉を信じちゃって。
青山と付き合ってるときは田西をストーカー呼ばわりし、捨てられるとしつこく泣いて、つきまとう。ストーカー行為に陥り、ストーカー扱いしていた田西にまた頼る。相談相手だった青山の部下と寝てしまう。
……うん、ヒドイ。ヒドイけど、恋愛って、人間ってそんなもんだ。矛盾してても、瞬間瞬間の彼女の気持ちは嘘じゃない。常に正直でまっすぐなんだ。
「なんでも そうだけど、 本気じゃなきゃ つまんないですよ。」
(1巻203頁)
その正直さに、最後の最後で田西は許せなくなってしまったわけで……。
いたい。ほんとーにいたすぎる、別れ。
これだけリアルに憎しみを込めて描いてるのに、仕草も表情も100%かわいいままなんて、作者はスゲーですよ。なんつー、プロ根性と嗜虐趣味。
そのせめぎ合いが、ちはるを魅力的にしていると思うんですね。でも、ちはるがかわいく見えるのはオバサンの証拠かなー。

田西敏行(たにし としゆき)
ここに来て、主人公。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のトラビス。
ご存知のように、この作品は9割9分、田西の視点によって描かれています。田西以外のモノローグが流れることはありません。読者が田西とシンクロしやすいよう、たっぷりLCLが注入されているわけです。
(なので、5巻39話で、名もなきオタクの回想シーンが挿入されたのには、唐突感と違和感を覚えました。前作の『ルサンチマン』に引き続き、作者はこの種のキャラを描きたくてしょうがないのかもしれませんね)
努力なんて、 したことなかった。
だから、 挫折の苦しみも 勝利の喜びも 知らない…
目の前に いるのは そんな男です。
そんな奴が、 女に好かれる はずがねえっ。
(1巻149・150頁)
自らそう言うように、27年間、何の行動も起こさなかった主人公。
これだけ田西に焦点をあてているのに、田西の過去がまったく見えてこないのは、本当に何もないからなんでしょうか。過去の失恋なんぞ回想で出てきてもよさそうなものなのに、一度も描かれたことがない。
はじめは、『ひぐらしのなく頃に』の圭一ばりに、重いトラウマを抱えながら見せてないだけなんじゃーとか、のちに田西の過去を知る重要な人物が登場するのかなーとか想像してたんですが、なんだか本気で何もなさそう。ここまでゼロな主人公もめずらしいです。
ゼロからの出発。
27歳のバースデーが、人生のスタート地点。子宮のテレクラを抜け出し、走って走って走り続ける。
回を重ねるごとに積まれていくページ数が、田西の人生の厚みなんですね。「うすっぺらなんだよ」と言われた人間が、どれだけ厚く成長できるか。その記録が、この『ボーイズ・オン・ザ・ラン』。
今のところ挫折ばかりが刻まれているようですが、勝利の喜びに至るまでには何ページ費やされるんでしょう。作者のシビアな視点を見てると、まだまだ遠い道のりのようですね。

ハナ
そして、ボクシング編のヒロイン。
1話で主要人物のように登場してきたのに、結局チラ見せで謎だらけの存在だった少女。
54話にして、やっと主人公とからみだした! と喜んでたら、とんでもない設定が明かされたり。
そ、そうくるかぁ〜。本当に容赦ねぇな、作者。ぜんっぜん、気づかんかったわぁ。
田西がどこまで彼女に近づけるか。ちはるのときのように逃げださず、ちゃんと向き合えるのかが見ものですね。
――以上が、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』5巻までの主要人物。
とにかく、見せ方がうまい。構成力がすごい。読者は田西とともに驚き、突き落とされ、走ってきました。
正直、社会人編が見事すぎるので、ボクシング編はそこまでクオリティが保たれるかどうか心配なんですが、聞いたところによると、とんでもない状態で青山が再登場してるみたいなので、これからも目が離せませんわ。
また斎田産業の人達も出てほしいなぁ。いい味の濃いキャラばっかだったし。
さて、今月中に6巻が出るようなので、そちらも要チェック。
まだ読んでない人は、今のうちに田西に乗っかときましょう。みんなで、オン・ザ・ラン。
……と。最後に、このキャラだけは語らせてくれ。今作をレビューする上で避けて通れないキャラ。

まゆみ
テレクラで知り合い、田西とホテルに行くが、その容姿のせいで事に至らなかった1話の女。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のすべては、このキャラに詰まっていると言っても過言ではありません。
電話で「山田花子似の ぽっちゃりだけど それでもいい?」と訊ねる、遠慮深さ。
待合せ場所に現れた田西の失望っぷりにショックを受けながら、「あたしで、 いいですか?」と訊ねる、謙虚さ。
豚丼をおごってもらったあとの、「ごちそーさま! ペコリ。」と言う、礼儀正しさ。
安い簡易ホテルを教え、「あたしとじゃ、 お金、もったい ないでしょ。」と言う、控えめさ。
滅茶かわいい! この小デブを、こんなにかわいく描写できる手腕! 1巻27ページまでは、確実に彼女がこの作品のヒロインでした。
なのに。ああ、なのに……。
田西が勃たないと知ってからの彼女の豹変っぷりといったら、なんという夜叉。
セックスへかける女の執念がリアルすぎます。女の闇に積ったルサンチマンがよく見える。
この本性のあらわしっぷりは、青山やちはると、同じじゃないですか。
はじめの社交的な対応にだまされ、結果ボコボコになっちゃう展開も同じ。つまり、このジャージデブは、青山やちはるのプロトタイプ。この1話に、社会人編のすべてが示唆されていたということです。
相手の本性が見抜けず、何度も翻弄される田西。
ボクシングを通じ、果たしてその運命をくつがえせるのか。
この作品のラスボスはジャージデブまゆみだと、勝手に思っていながら読んでます。
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