第5回 学校へ行こう『天使なんかじゃない』
学校、好きでしたか?
社会人になると「学生の頃はよかった」とか「あの頃に戻りたい」なんて愚痴っちゃう人が多いですよね。そんな人は、さぞ充実した青春を送ってこられたんでしょう。素晴らしいことです。
ええ、もちろんアタシは大嫌いでしたよ。
小中高と問わず苦痛で苦痛で。おかげで大人になってから、遠い昔に想いを馳せて「戻りたい」などと詮無きノスタルジアに陥ることもありません。「あの頃に比べれば、今はなんと幸福なことか」と、どんな苦境でも乗り越えられます。忍耐力がつきました。
暗い青春バンザイ! 鬱々たる学生時代こそが、明るい社会生活を築く!
……まぁ、やっかみですけど。
というわけで、今回はこれでもかと青春を謳歌した作品。高校生活を堪能しまくった漫画のお話です。

『天使なんかじゃない』
現在も様々なメディアミックスでヒットを連発している一大産業漫画、『NANA-ナナ-』の作者、矢沢あいが「りぼん」時代に描いた作品ですね。アタシが12歳〜15歳の頃に連載されていました。
「ジャンプ」とともに「りぼん」を購読していたアタシは、それはもうハマリました。
聖学園の1期生である冴島翠(さえじまみどり)たちが、生徒会を通じて繰り広げる、恋と友情の物語。高校1年の2学期から卒業するまでをたっぷり描いた青春群像です。
もうこれでもかというほど、学園ドラマがてんこもり! 学校で味わう、酸いも甘いも、ここにある! いや、アタシが通らなかった道ばかりだけど!
高校を舞台にした少女漫画で起こるであろう、すべての王道がここに詰まっているのです。
10年以上も前の作品ですから当然かもしれません。いえ、10年前の時点ですらすでに「ベタ」確定だったエピソードもちらほらと。
それは悪いことではありません。王道をいかに形骸化させず血肉を宿らせ描くか、それこそが作家の腕の見せ所ではありませんか。
常套句ほど美しいものはない。
かの詩人、ボードレールもそう言っておりました。
それに、矢沢あい作品の根底に流れるものは「ド演歌」。もう、メッセージが濃ゆい濃ゆい(『NANA-ナナ-』もパンクでもポップスでもなく、ド演歌ですよね)。投げかける拳が、魂を揺さぶる力が半端ありません。
今回は、そんな『天使なんかじゃない』が歩んできた王道を10コ、物語順に挙げていこうと思います。
名づけて、《天ないの、これぞ演歌の花道》。「あるあるw」とうなずきながら読んでいただけたら、これさいわいです。ドンドンドン、ベタベッタ!
(巻数はリボンマスコットコミックのものです)
1ベタ 不良なアイツが雨の日に捨て猫を拾う(1巻)
いきなりきたーーー!
第1話からこれです。主人公が恋する瞬間が、コレ。
今から繰り広げられる王道の数々が思いやられるってなもんですね。
数々の漫画でもネタとしても繰り返されているエピソードですが、そもそも捨て猫ってそんなにいるもんなんでしょうか?
アタシはダンボールに捨てられてる猫すら、生まれてこのかた、見たことありません。探してます、捨て猫。
ダンボールごと川に流されまくる映画なら見たことありますけど……。
2ベタ バイクに2人乗りで「しっかりつかまってろ」(1巻)
好きになった男が「不良なアイツ」ならバイクネタも必須。
これには、〈男の体に強くしがみつく→「痛い」と言われる→「やだ、わたしったら!」とあわてて手を離す→「いいからつかまってろ」と手を握られる→「きゃあ〜!///」〉というフルコンボが必要です。
このバイクデートなら実際に体験された方も多いかもしれませんね。
アタシも「いいからつかまってろ」じゃないですけど、つかまって風で冷えた手を、「ここに入れなよ」と男のジャケットのポッケ両方ずつに手を突っ込まれ走ったという思い出がありますよ。
あまーーーい!
3ベタ お化け屋敷で恐怖のあまり抱きつく(1巻)
学園物といえば学園祭、学園祭といえばおばけ屋敷(夏休みの夜に有志が集まってでも可)。
そして、〈普段はとても怖がりに見えない人が怖がる〉というのがミソです。
『天ない』ではマミリンこと麻宮裕子がその役に借り出されています。
タキガワマンとの触れ合いが切ないよ〜。
4ベタ 学園祭の〆はチークダンス(1巻)
あるいはフォークダンスでも可。しかも「好きな人の番!」てところで曲が終わるっつー展開でね。
チークダンスもフォークダンスも未体験ですわ。あんなの、いじめにあってた子には拷問でしかないよ、ホント……。
5ベタ キスシーンはかかとを上げた足(2巻)
今はあまり見ませんね。向かい合って立つ男と女の足のアップで、女のかかとが浮いてるっていう描写。
キスしてる顔を直接撮らず、足だけで表現するという奥ゆかしさ。ワビサビ。映画からきてる表現なのかな?
6ベタ 白雪姫の劇でキスシーン(2巻)
キスするふりだけの演技なのに、ハプニングで本当にしちゃうって展開が主ですね(或いは「ロミオとジュリエット」とかね)。
『天ない』では「新入生歓迎会」において2度も白雪姫が演じられるますすが、2度ともそのようなハプニングはありませんでした。ドタバタラブコメではないということですね。
7ベタ 彼に会いにアパートに行くと、隣の人が「引越したよ」(6巻)
これは学園物に限らずベター!
ドアを叩いて名前を叫んでいると、隣の部屋のドアが開いて「うるさいわね、そこの人なら引越したわよ」。この役は頭にカーラー巻いたネグリジェ姿のおばはんがベストです。昔メッセンジャーのネタにもあったわ〜。
『天ない』ではそこまでしませんけど。元ヤンぽいねーちゃんが言ってくれます。
8ベタ 車にひかれる(6巻)
事故に遭うのも少女漫画のドラマツルギーには必須。「あわやぶつかる!」てとこでホワイトアウトして、以下次号……。
まぁ、だいたい次の回ではケロッとしてるんですけど。
9ベタ 彼が実は社長のご子息(7巻)
貧乏な暮らしをしてたはずなのに、実はおぼっちゃまだった!? 結婚したら玉の輿ぃ?
……やはり、いつの時代でも〈王子様〉は金持ちじゃないといけないんですね。貧乏でも許される王子は横山たかしぐらいでしょうか(いや、実際は金持ちでしょうけど)。
10ベタ ドッキリお誕生日パーティ(8巻)
誕生日なのに誰にも会えずに淋しくしてたら、実はみんなでこっそりパーティの準備をしていて、「うそぉーー(T0T)!!」……という、あれ。
転じて、誕生日にドッキリを仕掛けるというのがテレビ番組でも多いですよね。人は「喜ばせたい」より「驚かせたい」な生き物なんですね。
……というわけで10ベタ、いかがだったでしょうか。
これらには『天ない』が倣ったベタもあれば、『天ない』が創始したベタもあると思います。それだけ偉大で、魂のこもった作品でしたから。
今回、改めて読み直しましたが……やはり、いい。
少年漫画は何年経っても名作であり続けるものが多いですが、少女漫画でそれはなかなかないですよね。とくに90年代以降は。
最も多感な時期、その瞬間にだけ、途轍もない共感を与えてくれるのが少女漫画。通り過ぎてからは、けっして戻れない世界なのかもしれません。
けれど、『天ない』は今読んでも良い。大人になって読んでこそわかる心理もありました。マキ先生の気持ちとか……ほんまに大人やわ、先生。
数々の王道と感動を踏まえた末、最終回で翠たちは聖学園を卒業します。みんなが涙する感動の卒業式です。
……うん、なかった。そんな卒業式味わったことないわ。
生ぬるい学園物なら( ゚д゚)、。ペッ と唾をかけるとこですが、これにはできません。純粋に彼女たちの卒業を祝福できちゃう。あんなに学校が嫌いだったのに。
――最近はまたいじめ問題が頻繁に取り上げられていますね。
すべての学校が聖学園のように温かかったら、そんなことも起こらないでしょうが、現実は違います。
つらく苦しいだけの学校生活を送っている人間には、『天ない』の世界は眩しすぎます。うしろめたくなる人もいるかもしれません。
いえいえ、行きたくなければさっさとやめちゃえばいいんです。
成し得なかった理想の学園生活は、漫画を読んで補完すればいいんです。体験してないことも、追体験しちゃえば自分の経験。ケラさんも歌ってました。
♪さあ、学校へ行こお〜 行きたくなきゃやめーよーお〜
社会人になると「学生の頃はよかった」とか「あの頃に戻りたい」なんて愚痴っちゃう人が多いですよね。そんな人は、さぞ充実した青春を送ってこられたんでしょう。素晴らしいことです。
ええ、もちろんアタシは大嫌いでしたよ。
小中高と問わず苦痛で苦痛で。おかげで大人になってから、遠い昔に想いを馳せて「戻りたい」などと詮無きノスタルジアに陥ることもありません。「あの頃に比べれば、今はなんと幸福なことか」と、どんな苦境でも乗り越えられます。忍耐力がつきました。
暗い青春バンザイ! 鬱々たる学生時代こそが、明るい社会生活を築く!
……まぁ、やっかみですけど。
というわけで、今回はこれでもかと青春を謳歌した作品。高校生活を堪能しまくった漫画のお話です。

『天使なんかじゃない』
現在も様々なメディアミックスでヒットを連発している一大産業漫画、『NANA-ナナ-』の作者、矢沢あいが「りぼん」時代に描いた作品ですね。アタシが12歳〜15歳の頃に連載されていました。
「ジャンプ」とともに「りぼん」を購読していたアタシは、それはもうハマリました。
聖学園の1期生である冴島翠(さえじまみどり)たちが、生徒会を通じて繰り広げる、恋と友情の物語。高校1年の2学期から卒業するまでをたっぷり描いた青春群像です。
もうこれでもかというほど、学園ドラマがてんこもり! 学校で味わう、酸いも甘いも、ここにある! いや、アタシが通らなかった道ばかりだけど!
高校を舞台にした少女漫画で起こるであろう、すべての王道がここに詰まっているのです。
10年以上も前の作品ですから当然かもしれません。いえ、10年前の時点ですらすでに「ベタ」確定だったエピソードもちらほらと。
それは悪いことではありません。王道をいかに形骸化させず血肉を宿らせ描くか、それこそが作家の腕の見せ所ではありませんか。
常套句ほど美しいものはない。
かの詩人、ボードレールもそう言っておりました。
それに、矢沢あい作品の根底に流れるものは「ド演歌」。もう、メッセージが濃ゆい濃ゆい(『NANA-ナナ-』もパンクでもポップスでもなく、ド演歌ですよね)。投げかける拳が、魂を揺さぶる力が半端ありません。
今回は、そんな『天使なんかじゃない』が歩んできた王道を10コ、物語順に挙げていこうと思います。
名づけて、《天ないの、これぞ演歌の花道》。「あるあるw」とうなずきながら読んでいただけたら、これさいわいです。ドンドンドン、ベタベッタ!
(巻数はリボンマスコットコミックのものです)
1ベタ 不良なアイツが雨の日に捨て猫を拾う(1巻)
いきなりきたーーー!
第1話からこれです。主人公が恋する瞬間が、コレ。
今から繰り広げられる王道の数々が思いやられるってなもんですね。
数々の漫画でもネタとしても繰り返されているエピソードですが、そもそも捨て猫ってそんなにいるもんなんでしょうか?
アタシはダンボールに捨てられてる猫すら、生まれてこのかた、見たことありません。探してます、捨て猫。
ダンボールごと川に流されまくる映画なら見たことありますけど……。
2ベタ バイクに2人乗りで「しっかりつかまってろ」(1巻)
好きになった男が「不良なアイツ」ならバイクネタも必須。
これには、〈男の体に強くしがみつく→「痛い」と言われる→「やだ、わたしったら!」とあわてて手を離す→「いいからつかまってろ」と手を握られる→「きゃあ〜!///」〉というフルコンボが必要です。
このバイクデートなら実際に体験された方も多いかもしれませんね。
アタシも「いいからつかまってろ」じゃないですけど、つかまって風で冷えた手を、「ここに入れなよ」と男のジャケットのポッケ両方ずつに手を突っ込まれ走ったという思い出がありますよ。
あまーーーい!
3ベタ お化け屋敷で恐怖のあまり抱きつく(1巻)
学園物といえば学園祭、学園祭といえばおばけ屋敷(夏休みの夜に有志が集まってでも可)。
そして、〈普段はとても怖がりに見えない人が怖がる〉というのがミソです。
『天ない』ではマミリンこと麻宮裕子がその役に借り出されています。
タキガワマンとの触れ合いが切ないよ〜。
4ベタ 学園祭の〆はチークダンス(1巻)
あるいはフォークダンスでも可。しかも「好きな人の番!」てところで曲が終わるっつー展開でね。
チークダンスもフォークダンスも未体験ですわ。あんなの、いじめにあってた子には拷問でしかないよ、ホント……。
5ベタ キスシーンはかかとを上げた足(2巻)
今はあまり見ませんね。向かい合って立つ男と女の足のアップで、女のかかとが浮いてるっていう描写。
キスしてる顔を直接撮らず、足だけで表現するという奥ゆかしさ。ワビサビ。映画からきてる表現なのかな?
6ベタ 白雪姫の劇でキスシーン(2巻)
キスするふりだけの演技なのに、ハプニングで本当にしちゃうって展開が主ですね(或いは「ロミオとジュリエット」とかね)。
『天ない』では「新入生歓迎会」において2度も白雪姫が演じられるますすが、2度ともそのようなハプニングはありませんでした。ドタバタラブコメではないということですね。
7ベタ 彼に会いにアパートに行くと、隣の人が「引越したよ」(6巻)
これは学園物に限らずベター!
ドアを叩いて名前を叫んでいると、隣の部屋のドアが開いて「うるさいわね、そこの人なら引越したわよ」。この役は頭にカーラー巻いたネグリジェ姿のおばはんがベストです。昔メッセンジャーのネタにもあったわ〜。
『天ない』ではそこまでしませんけど。元ヤンぽいねーちゃんが言ってくれます。
8ベタ 車にひかれる(6巻)
事故に遭うのも少女漫画のドラマツルギーには必須。「あわやぶつかる!」てとこでホワイトアウトして、以下次号……。
まぁ、だいたい次の回ではケロッとしてるんですけど。
9ベタ 彼が実は社長のご子息(7巻)
貧乏な暮らしをしてたはずなのに、実はおぼっちゃまだった!? 結婚したら玉の輿ぃ?
……やはり、いつの時代でも〈王子様〉は金持ちじゃないといけないんですね。貧乏でも許される王子は横山たかしぐらいでしょうか(いや、実際は金持ちでしょうけど)。
10ベタ ドッキリお誕生日パーティ(8巻)
誕生日なのに誰にも会えずに淋しくしてたら、実はみんなでこっそりパーティの準備をしていて、「うそぉーー(T0T)!!」……という、あれ。
転じて、誕生日にドッキリを仕掛けるというのがテレビ番組でも多いですよね。人は「喜ばせたい」より「驚かせたい」な生き物なんですね。
……というわけで10ベタ、いかがだったでしょうか。
これらには『天ない』が倣ったベタもあれば、『天ない』が創始したベタもあると思います。それだけ偉大で、魂のこもった作品でしたから。
今回、改めて読み直しましたが……やはり、いい。
少年漫画は何年経っても名作であり続けるものが多いですが、少女漫画でそれはなかなかないですよね。とくに90年代以降は。
最も多感な時期、その瞬間にだけ、途轍もない共感を与えてくれるのが少女漫画。通り過ぎてからは、けっして戻れない世界なのかもしれません。
けれど、『天ない』は今読んでも良い。大人になって読んでこそわかる心理もありました。マキ先生の気持ちとか……ほんまに大人やわ、先生。
数々の王道と感動を踏まえた末、最終回で翠たちは聖学園を卒業します。みんなが涙する感動の卒業式です。
……うん、なかった。そんな卒業式味わったことないわ。
生ぬるい学園物なら( ゚д゚)、。ペッ と唾をかけるとこですが、これにはできません。純粋に彼女たちの卒業を祝福できちゃう。あんなに学校が嫌いだったのに。
――最近はまたいじめ問題が頻繁に取り上げられていますね。
すべての学校が聖学園のように温かかったら、そんなことも起こらないでしょうが、現実は違います。
つらく苦しいだけの学校生活を送っている人間には、『天ない』の世界は眩しすぎます。うしろめたくなる人もいるかもしれません。
いえいえ、行きたくなければさっさとやめちゃえばいいんです。
成し得なかった理想の学園生活は、漫画を読んで補完すればいいんです。体験してないことも、追体験しちゃえば自分の経験。ケラさんも歌ってました。
♪さあ、学校へ行こお〜 行きたくなきゃやめーよーお〜
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